妖狐の天清(たかきよ)

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急に吹き出した僕を見て、たかきよくんは、丸い顔をコテリと横に倒す。その仕草に僕の胸がキュンと鳴って、慌てて握られていた両手を外した。そして、今度は僕がたかきよくんの手を握って言う。 「ふふっ、うんいいよ。遊ぼう。何して遊びたい?」 僕が笑顔で聞くと、たかきよくんも、満面の笑顔で答える。 「えとね…、あ!変身ごっこしたい!」 「変身ごっこ?」 初めて聞く遊びの名前に、僕は困って凛を見る。 凛も苦笑いをして、隣に立っている妖狐の男の人を見上げて聞いた。 「なぁ清、変身ごっこって何?」 「くく…っ。やべー、天清可愛い…。え?あっ、変身ごっこねっ」 ブツブツと呟いていた『きよ』と呼ばれた男の人が、凛の問いに気づいて慌てて座る。顔は凛の方を向いてるけど、だらしなく垂れた目は、たかきよくんを見ていた。 「こいつ今さ、耳と尻尾を出す練習してんの。三回に一回ぐらいの割合で出来るんだけど、遊びだと思ってるみたいで、すっげー楽しそうなんだよ。きっと、青藍にも見せたいんだと思う」 「へぇ…天清くん、もうそんなことが出来るんだ。ねぇ、お兄さんにも見せてくれる?」 「うん、いいよ!」 たかきよくんが、凛に向かって得意げな顔で大きく頷く。たかきよくんの動きの一つ一つが、見ていてとても可愛い。 「凛、外に出ていい?庭で変身ごっこして遊ぶ」 「いいよ。でも、門からは出ちゃダメだよ?」 「うん、わかった。じゃあたかきよくん、行こっか?」 僕が小さな手を握って引くと、たかきよくんは「うん!」と元気よく返事をして、ついて来た。 僕達の後ろをついて来る凛に、たかきよくんのお父さんが、「お兄さんって。俺と同じ年だからおじちゃんでいいんじゃね?」と笑う。 「いやっ、俺まだ二十三だから。世間では若い方だから。清も若いお父さんって言われるだろ?」 「…俺、なんでか年よりだいぶ年上に見られる…。茉由(まゆ)は年相応か若く見られるのに…」 「そうだね。茉由ちゃんはホントに若いお母さんって感じ。まさか、こんなに早く結婚するとは思わなかったけどね~」 「まあ…天清を授かっちゃったからな。じゃなくても、結婚はする気でいたし」 「俺と銀ちゃんよりも、先に籍入れちゃうんだもん。あの時は、驚いたよ」 「へへっ、そう?俺さ、何よりも一ノ瀬さんの悔しそうな顔を見れたのが一番気持ちよかっ……」 「清忠、それ以上言うと、地獄耳の銀様に聞かれて酷い目に合うよ?」 「ひぃっ!」
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