未来永劫

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涼さんは、チョコを袋から出して口に放り込むと、思い出したように僕を見た。 「あ、玲くんに見惚れて言うの忘れるところだったよ。あのね、今日から俺と同じ内科の新しい先生が来るんだけど、俺が忙しかったから、今中庭に散歩に行ってるんだよ。玲くん、悪いけど、中庭に行って呼んで来てくれる?」 「あっ、七瀬先生っ、こんな所にいたっ!患者さんが待ってますから早く戻って下さいっ」 「わかった…っ。じゃあ玲くん、行けばわかるから。頼んだよ?」 「えっ?ちょっと待っ…」 僕が声をかけるよりも早く、涼さんは、呼びに来た看護師と一緒に、早歩きで行ってしまった。 ーー呼びに…って、名前もどんな人かも知らないのに…。 でも頼まれてしまったからには、行かないわけにはいかない。 僕は、小さく息を吐いて階段を降り、コンビニの前を通り過ぎて、中庭に続くドアを開けた。 ここは大きな病院だから、中庭もかなり広く綺麗に整備されている。 まだお昼には少し早い時間だからか、今は人影もない。 ーーえぇ…、誰もいないよ? 少しだけ、心の中で愚痴を言って、ゆっくりと中庭の中を歩く。可愛らしいピンク色の花をつけた百日紅を見てほっこりしてると、急に風が吹きつけてきて、顔を背けて目を閉じた。すぐに風が止んで、ゆっくりと目を開ける。目線の先の大きな木の下にあるベンチに、腰掛けている人がいた。 ーーあ、たぶんあの人だ。白衣があるし。 ベンチの背もたれに背中を預けて空を見上げるその人の横に、白衣が丸めて置かれている。 僕は、少し早歩きになって、ベンチへと近づいて行く。 近づくにつれて、僕の心臓が、ドキンドキンと大きく早鐘を打ち始めた。 ーーえ…ちょっと待って…。いや、違う。そんなこと、あるわけ…。 あと数メートルという距離で、僕は足を止めた。 全身がガタガタと震え、目に涙が浮かぶ。 僕は、震える手を祈るように胸の前で合わせて、ベンチに座る彼をジッと見つめた。 ーーああ…でも…っ、やっぱりそうだ。大人の男の人になってるけど、こんなにも惹きつけられる人は、世界に一人しかいない…。 僕は震える唇を開いて、愛しい名前を呼んだ。 「悠…ちゃん?」
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