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「…つっ!このクソガキっ!待てっ」
一瞬怯んだ正司さんが、すぐに怒りを露わに追いかけて来る。
僕は、後ろを振り返るのが怖くて、前へ前へと木々の間を走り抜けた。
「玲っ!どこだっ!玲っ」
「悠ちゃんっ。ここだよっ!助けて…っ」
「玲っ、玲っ!」
悠ちゃんの声に向かって走っていると、突然、目の前が開けて湖に突き当たった。僕が気に入って何度か来た湖。それを囲む道の少し先に、悠ちゃんの姿が見える。
僕はホッと息を吐いた。
悠ちゃんも僕に気づいて、駆け寄って来る。
「玲っ。大丈夫かっ?」
あと数歩で悠ちゃんの手が僕に届くというところで、背後から正司さんが現れて、僕を捕まえようと手を伸ばした。
ーーいやだ。絶対に捕まりたくない…っ。
強い嫌悪を感じた僕は、咄嗟に目の前の湖に飛び込んだ。
冷たく澄んだ湖は、意外と深くて僕の身体がゆっくりと沈んでいく。
ーーあの人に捕まるくらいなら、このまま湖の底に沈んでしまった方がいい…。悠ちゃん…ごめんね。また心配かけさせちゃったね…。
心の中で悠ちゃんに謝りながら、そっと目を閉じた僕の身体が、力強い腕に抱き寄せられる。ああ、この腕はよく知ってる。僕が唯一安心できる大好きな…。
ザバリと水の中から浮き上がり、すぐ目の前の人物を見た。
「玲っ、玲っ!しっかりしろっ」
「ゆ、ちゃん…?悠ちゃん…っ!うっ、うわぁん…っ」
「もう、大丈夫だ…」
しっかりと僕を抱きしめる悠ちゃんにしがみついて、僕はポロポロと涙を流しながら、声を上げて泣いた。
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