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拓真は、僕よりも頭一つ分高い身体を曲げて、心配そうに覗き込んできた。
僕は、笑って壁から身体を離して歩き出す。
「おはよう、拓真。大丈夫だよ。走って来たから息が切れただけ…」
「お、おう、そうか…?でも、しんどいなら少し休んで後の電車にする?」
「嫌だ。いつものに乗るよ」
「わかった。じゃ、鞄貸して」
僕の肩から鞄を外して、拓真が僕の背中に手を添える。僕は、まだ少しふらつきながらホームへと続く階段を登り始めた。その背中を、拓真が支えてくれる。
いつもの時間の、いつもの車両に乗り込んだ。相変わらず満員で、ドアの隅に身体を押し付けられる。でも、僕はそれほど苦しくはないんだ。だって拓真がいつも、ドアに腕を突っ張って、僕の為に小さな空間を作ってくれるから…。
僕は、そっと拓真を見上げて謝った。
「拓真、大丈夫?いつもごめんね。僕の事、気にしなくてもいいのに…」
「ばか、気にするに決まってんだろ。玲は小っさいから、放っておいたら潰れちまうだろ?」
「ぼ、僕はそんなに小さくないから…っ」
「はいはい、まあいいから俺に守られてろ。それに、今はしんどいんだろ?」
整った精悍な顔で微笑まれて、僕はそれ以上何も言えなくなった。ドアから見える外の景色を横目で眺めて小さく溜め息を吐く。そして、ゆっくりと視線を横にずらせて、離れたドアの前にいる人物に目を向けた。
ーー悠ちゃん…。
イヤホンで音楽を聴いているのか、ドアに肩をつけて目を瞑る端整な顔から、目が離せなくなる。
ーー何を聴いてるんだろ。あ、右の髪の毛が少し跳ねてる。ふふ、寝ぐせが治ってないよ…。
ぼんやりと悠ちゃんを見ていたから、急な電車の揺れに対応出来なくて、大きく身体が傾いてしまう。
「あっ…!」
倒れる!と思った所を、拓真がしっかりと胸に抱き留めてくれた。
「あ、ありがとう…。拓真は大丈夫だった?」
「ん…平気。危ないからこのままくっついてろよ」
「えっ、いいよ…あっ」
断って拓真の胸を押したけど、ビクとも動かない。拓真は、片手をドアに置いて、もう片方の腕を僕の背中に回して強く抱き寄せた。
僕は諦めて力を抜き、また悠ちゃんに目を向ける。その瞬間、悠ちゃんと目が合い、どきんと大きく心臓が跳ねた。僕が悠ちゃんから目を離せないでいると、一瞬、悠ちゃんはこちらをぎろりと睨んで、すぐに目を逸らせてしまった。途端に僕の胸が痛み出す。
ーー悠ちゃん…、どうして?僕のこと、嫌いになったの?いつから?あんなに仲が良かったのに…。
また溢れそうになる涙を隠すように、僕は拓真の胸にそっと顔を押し当てた。
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