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ソフィアはその国のことを知っていました。ソフィアの部屋にある文献にその国の歴史が載っていたからです。
しかし、老婆の口から語られた現実の世界は、生々しい、生きた物語でした。
そこには文献からは読み取れない凄惨な世界がありました。ある者は足を怪我し、水を汲み行くことができなくなり命を落としたそうです。ある者は隣家から水を盗み出し、それが見つかって斬首の刑となったそうです。それらの話は、単に〝水のない国が存在する〟という事実以上の、真に迫ったものでした。
ソフィアは自分の無知を感じました。
これまで世界の国々について学んできたのに、そこに住む者たちの暮らしを想像していなかったのです。何の不便もなく生きてきたソフィアにとって、彼らの生活は衝撃でした。想像力のない自分、ただ頭の中に知識を詰め込んでいるだけの自分を強く恥じました。
その後、ソフィアは部屋を出て、国内の水源に関わる人々に話を聞きに行きました。
そこに関わる人々の暮らしを知りたいと思ったのです。水がどこからやってくるのか、それをどのように得ているのか……そういった画一的な知識だけではなく、その先にいる人々の生活を学ばなくてはならないと感じました。
ソフィアの国は街中に水路が張り巡らされています。ソフィアはその水路を管理している人を調べ、話を聞いて周りました。
皆、快くソフィアの質問に答えてくれました。どのようにして水路の清潔さを保っているのか。どのようにして不具合を補修しているのか。そこに至るまでにはどんな話し合いが、失敗が、苦労があったのか……。時には隣り合う区の住居者同士で言い合いになりながら、または研究者の間で意見を対立させながら、彼らは問題を乗り越えていました。彼ら一人一人の背景を知り、ソフィアは自分の住む国について理解を深めていきました。
外に出て人と話すようになったソフィアを、サラは喜んでくれました。
それをきっかけに、サラと話す機会も増えました。相変わらず外でも学ぶことばかりを考えているソフィアにサラは困った顔をしていましたが、それでもソフィアの変化に喜んでいたようでした。
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