遠い遠い国のお話

3/10
前へ
/10ページ
次へ
  〝遠い、遠い国の話をいたしましょう〟  またある日、老婆がソフィアの部屋にやってきました。  その老婆は先日やってきた老婆とは違う人物でした。しかし老婆は旅の者であり、やはりサラが呼んだ人間でした。ソフィアは彼女を部屋に迎い入れ、話を聞くことにしました。 〝ここから北にずっとずっと進み、山を二十越えた先の国。そこは、岩が多く作物が育ちにくい、食に飢えた国でした。人々は常に食べ物を求めていました。僅かに残った土の大地に種を蒔き、何かが育ちますようにと願う日々でした。しかし、栄養価の少ない死の大地に根を張る作物はありませんでした。人々は次第に現実から目を背けるようになり、教会に入り浸るようになりました。しかし神に縋っても人々の腹が満たされることはなく、国民は静かに餓死していくのでした……〟  ソフィアは老婆の話を真剣に聞きました。その話は聞けば聞くほどに心が痛み、胸が張り裂けるようなものばかりでした。  そしてまた、ソフィアは部屋を出て、国内の食物に関わっている人々に話を聞きに行きました。  どのような考えで作物や家畜を選び、育て、売り出すに至ったのか。そこに至るまでにはどんな話し合いが、失敗が、苦労があったのか……。ソフィアの国は風が強く水はけのよい土地柄だったので、人々はそれを活かせる農作物を研究していました。  農家、牧場、市場、ソフィアは国内の様々な場所を訪れ話を聞きました。  そしてそうしているうちに、いつしかソフィアは遠い遠い国々へ想いを馳せるようになりました。  彼らのことを考えながら、何もすることができない自分を嘆きました。ソフィアはあれから水や食物に関する知識を深めましたが、彼らに対してできることが何もなかったのです。自分の無力さを痛感しました。  自分は何のために学んできたのか。それは、いつか人のため、国のためになりたいと思っていたからです。  ならば、自分はどうすべきか。自問する日々が続きました。  
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加