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〝遠い、遠い国の話をいたしましょう〟
またある日、老婆がソフィアの部屋にやってきました。
ソフィアは彼女を部屋に迎い入れ、話を聞くことにしました。老婆の話を聞くことはいつしかソフィアの楽しみとなっていました。
〝ここから北にずっとずっと進み、山を百も越えた先の国。そこは、恒星の光が届かない、闇に包まれた国でした。人々は常に光を求めていました。街の至るところに炉を設置して、その火を絶やさないよう見張る日々でした。光はその国において、平和の象徴でした。そのため、街の一角の火が消えるとそこはたちまち犯罪の巣となり、穏やかな街並みは窃盗や殺人で溢れかえるのでした……〟
ソフィアはとうとう決意をしました。
彼の国々へと赴き、彼らの手助けをしようと。
自分の知識はこのためにあったのだと思いました。これまでに培ってきた自分の知識は、彼らのためにあったのだと確信しました。
元はといえば、ソフィアは自分の住むこの国の力になりたいと考えていました。ですが、それは必要のないことだと思うようになりました。
何故なら、この国に住む人々は今、苦労や苦難を感じながらも幸せに暮らせているからです。
国の開墾に奔走した時期を超え、今、この国は安定の中にいました。自分の知識を必要としているのはこの国の外、遠い遠い場所にあるのだと感じました。ソフィアは居ても立っても居られず、その日のうちに妹に話をしに行きました。
妹はソフィアの決意を聞いて、泣いて引き止めました。そんなことをさせたくて旅の者を呼んだんじゃない、行かないで、と言って泣きました。それでも、頑固なソフィアはサラの制止にも心を動かすことはありませんでした。
父も母もソフィアの意見に反対することは明らかでした。だからソフィアはある夜、荷物をまとめて部屋を出ていきました。
所持品は鞄に入れられるだけの食料、服、僅かな金貨のみです。それだけで充分でした。ソフィアは一人、北を目指して歩き始めました。
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