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〝ここから南にずっとずっと進み、山を百も越えた先の国。そこは、水も作物も豊富で誰もが楽しく暮らしている、幸せに包まれた国でした。そこには姉妹の王女が暮らしておりました。姉は正義感が強く勉強熱心で、いずれは王妃となられる方でした。一方妹は勉強嫌いで、城のお金で遊び呆けては国民から非難を受けるような、不出来な人間でした。妹は姉のことを憎んでいました。努力家で博学な姉は、国民から愛されていたからです。国のためにと日がな城に篭って勉強に勤しむ彼女を、国民は謎多き女王として神格化していました。妹はそんな姉が妬ましくて仕方がありませんでした。そして妹はある日、彼女をこの国から追い出そうと考えました。彼女の部屋へ旅の老婆を向かわせ、遠い遠い国々の凄惨な現状を伝えたのです。そうすることで、正義感の強い姉の意識を自分の国ではなく、遠い遠い国々へ向けさせようと思いました。狙い通り、姉は徐々に関心を外の世界へと向けていきました。そしてある日、とうとう姉の口から国を出ることを告げられました。妹は姉の頑固な性格を知っていたので、姉の決意を強固なものにするため必死に泣いて止めました。その甲斐もあってか、姉はその日の夜に国を出ていきました。そして無事、妹は王妃の座につくことができたのです〟
ソフィアはその話を静かに聞いていました。
そして、その後、その幸せな国はどのようになったのかを聞きました。
老婆は静かに語りました。
〝国は滅びました。彼女に国を統べる器はなかったのです。国を受け継いだ妹は国民に見向きもせず、自分のためだけに国の資産を使いました。国民はそんな彼女に耐えかね、反乱を起こしました。国民と王妃の兵たちの戦いは三日三晩続きました。国民は、最後の命が燃え尽きる瞬間まで、失踪した王女のことを想っていたといいます。彼らは最後まで王女を愛し、彼女が戻ってくるのを待っていました。彼女はどこへ行ってしまったのでしょうか。それを知る者は、誰もいません……〟
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