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その老婆が国を訪れたのは、ソフィアがまだ十六歳の頃のことでした。
老婆は旅の者でした。旅の者は様々な土地を訪れ、有益な情報を売り買いすることを生業としていました。どっしりとしたローブを纏い、手には滑らかな碧いブレスレットをしていました。
〝遠い、遠い国の話をいたしましょう〟
老婆はある日ソフィアの部屋を訪れ、そう言いました。
見知らぬ老婆の来訪に、ソフィアは大変驚きました。聞くと、老婆をソフィアの元へ呼んだのはソフィアの妹、サラとのことでした。サラはいつも部屋にこもっているソフィアを心配していました。だからソフィアに内緒で旅の者をよこしたのでしょう。〝たまには外の世界に目を向けてほしい〟〝外の世界の話を聞けば、姉が部屋を出るきっかけになるのではないか〟――サラがそう考えたであろうことは、想像に容易いものでした。
しかしソフィアは当時、少しでも多くの知識を得ることが自分にとって最良の行動なのだと信じていました。
だからソフィアは家族と話す時間も最小限にとどめていましたし、僅かな時間を老婆の話に割くことも煩わしく感じました。
しかしいくら頑固なソフィアでも、既に訪問してしまった老婆を無下にすることはできません。ソフィアは彼女を部屋に迎い入れ、少しばかり話を聞くことにしました。
そして、ソフィアの考えは一転するのです。
〝ここから北にずっとずっと進み、山を五つ越えた先の国。そこは、一面を乾いた砂地に包まれた、水のない国でした。人々は常に水を求めていました。桶一杯の水を得るため、半日以上をかけて谷の底にある湖へと向かう日々でした。何人もの子供たちが水を得ようと谷へ向かい、足を滑らせ命を失いました……〟
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