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翌週の水曜日……
ジュンは、新宿区にある美術大学の2年生で、港区のNマンションに住んでいた。
そして今日は誕生日だった。
が、ほとんど意識してなかった。
彼が、いつものように、シナモントーストを食べてコーヒーを飲んでから、着替えた時、玄関チャイムが鳴った。
「えっ、こんな時間に誰だ……?」
ドアを開けると、そこにいたのはカナだった。
2人は去年の春に知り合い、付き合っているのだった。
「ちょっと、オジャマしていい?」
「あー、いいけど……。どうしたの?」
カナはリビングの椅子に座ると、カバンからキレイな小箱を出して、
「はい、これをどうぞ」
「え、何?」
「バースデーブレゼント」
「おやおや、それはありがとう……。開けていいかな?」
「どうぞ」
そこにあったのは革製の小袋で、中に真珠なような玉が入っていた。
「えっ何? この玉というか……宝石というか……」
「とっても不思議な玉なの」
その時、ジュンはピンときて、
「おいおい、ジョークか? それとも何かマジックでもするとか?」
「モー。本当に不思議な玉なのー! でなきゃ、遅刻覚悟で来る?」
「ほぅ……。じゃ、どういう事?」
「まず、この玉を左手で軽く握って」
ジュンは、怪訝そうに言われたとおりした。
さらにカナは、周りを見て、
「何処かへ移動させたい物って……何かある?」
すると彼は、キッチンのゴミ袋を見て、
「それならゴミかな……捨てに行かないと……だから」
「じゃ、右手の親指と人差し指で輪をつくり、あのゴミ袋をその輪の範囲に入るように見ながら、ゴミ置場へ行け――って言うのよ。そして、その玉が熱くなったらOK。やってみて」
ジュンが苦笑しながら、言われたとおりやってみると、
「おっ、熱くなってきた」
するとゴミ袋は……消えた。
「えっ、マジでー! どうしてー?」
「それは私にも分からないの。ねっ。スゴイでしょう? じゃ、私も大学へ行
くから、駅まで一緒に行きましょう」
カナが先に玄関に向かった。
するとジュンは、さっき同様、指を輪にして彼女に向けながら覗き、
「カナを東京の立花大学の正門まで移せ」
すると、左手の中の玉は熱くなり、カナは……消えた。
「すごーい! じゃ、ボクは普通に電車で……」
不思議な玉をポケットに入れると、玄関に向かった。
ジュンはマンションを出ると、ゴミ置場を確認して、
「わーお。本当に僕のゴミだ。スゴーイ!」
スキップするようにJR港区駅へ向かった。
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