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ジュンが通っている東京美術大学は、JR新宿線『美大前駅』から徒歩3分の所にあった。
ジュンが改札を出た時、後ろで騒ぎ声が聞こえた。
振り向くと、どこかの母子が踏み切りで立ち往生事で、通行人が騒いでいたのだ。
子供はまだ幼く、泣きつづけていた。
次の電車が、すぐ向こうから迫っているのだ。
その母親は、血相を変えて、
「お願いー!! 誰か助けてー!!」
ジュンは例の玉を握り、その母子を指の輪の範囲に入るようにして、
「この親子の自宅まで移せ」
すると玉が熱くなった直後、母子は……消えた。
そこへ電車が入ってきた。
「あっ、消えたぞー!」
「神隠しだー!」
「いや、奇跡だー!」
それを目撃した人々は、また騒ぎだした。
ジュンは、ホッとして美大へ向かった。
ジュンが大学に着くと、完全に遅刻だった。
……ので、コソコソと教室に入ると自習になっていて、隣席のヒロシが、
「おー、ジュン、お前が遅刻ってめずらしいな」
「ちょっと寝坊しちゃってさ……」
「そっか。だけどツイてるよ。デザイン講師の中村が急病だってさ」
「だから自習か……」
ジュンは席に就きながら、これは不思議な玉で人助けしたから……かな? と思った。
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