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夜明け前の海には人っ子一人いない。海辺を歩く幸子の足取りは重かった。
彼女は悩むことがあるとよく海へやってくる。昼間ではない。夜の海が彼女は好きだった。闇に包まれた海を眺めているだけで、なぜか穏やかな気持ちになれるからだ。
幸子は有給を使って三連休を作り、地方へ旅に出ていた。普段の息苦しい生活から少しでも抜け出したくて、目的もなくぶらぶらと海沿いを巡った。
目の前にある黒い海は彼女の今の心境そのもののようだった。海は何度も過去の自分を救ってくれたが、今回ばかりはお手上げらしい。彼女の気分は全く晴れなかった。
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