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「っ……和也」
自分の身体から産まれた我が子は、この地球上で一番愛しい宝物だった。病室のベッドで初めて彼を抱いたとき、涙が溢れてとまらなかった。自分の胸の中にすっぽりおさまるこの小さな命に、精一杯の愛を注ごう。体を張ってでもこの命を守り抜こう。そう決めたのだ。
初めて保育園に連れて行ったとき、息子はうるうると目に涙を浮かべていた。喚き散らすのではなく、恨みがましそうに、じっとこちらを見つめて。自分が保育園をあとにしようとすると、その小さな手がぎゅううっと、力強く自分の手首を掴むのだ。
机にかじりついて受験勉強に勤しむ息子の後ろ姿。家計が苦しく予備校にも通わせてあげられなかったのに、彼は文句一つ言わなかった。
社会人になった春――新品のスーツに身を包んだ息子は、誰よりも逞しくかっこよく見えた。カメラを向けると少し恥ずかしそうにはにかむ彼の姿に、どうしようもない愛おしさを感じた。
誰よりも――優しい子だったのだ。
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