淡い空

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淡い空

 いろいろな色を混ぜて薄めて淡くしたような、そんな空を描き終わった。 桜色(さくらいろ)藍白(あいじろ)象牙色(ぞうげいろ)牡丹鼠(ぼたんねず)月白(げっぱく)白藤色(しらふじいろ)。 こんなに色を知っているのは、絵が趣味だから。 今、この空を夜が明ける前から描いていたから。 水彩絵の具とキャンバスに封筒を添えて、立ち上がる。 ふと、この空の色をひとつひとつ言葉に表すために、たくさんの色の言葉を覚えたのを思い出した。 もうそんな記憶もいらないのだけど。  記憶、という言葉でパステルカラーにした心が、また原色に近づいていくのがわかった。  空は薄いまま、太陽がのぼっていく。 のぼっていく太陽と月は互いを避けるように、ゆっくりゆっくりのぼる。 それとも──。  心を沈めるために息をゆっくり吐きながら、私は私がいる橋の下に川面を見つめた。 川面は、静かに凪いでいる。 凪いだ川面を見つめながら呟いてみる。 「太陽が月を避けているのかも……なんて」  くだらないことを呟けるのも、今だけだ。 この橋と、川と、遠くの山。 だって、それらを見ながら私は死んでいくのだから。 自殺するために、この橋まで来たのだから。
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