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ふと、朝の中では無機質だと言える足音が聞こえた。
ゆっくりしすぎていたからだろうか。
止められても嫌だから、さっさと逝こう。
そう想い私は手すりをぎゅっと握って、飛び越える。
──ことは、できなかった。
強くてがっしりした、男性らしい手が私のことを後ろから羽交い締めにして、自殺させまいとしている。
今と前ではかなり状況が違うけれど、前も同じように命を助けられたことがあったっけ。
でも、今は助けてほしくない。
「離してください」
遺書はある。
だから、ここでこの人が私を離したところで、殺人に思われることはないだろう。
この人がそんなことを気にしているとは思わなかったが、私はそんなことを考えながら祈った。
死なせてください。
もう生きていたくないんです。
彼のいない世界で。
彼が私を知らない世界で。
「離せません。死んじゃ駄目ですよ」
その声に聞き覚えがあって、思わず私は振り向いた。
──彼だ。
パジャマを着たままの彼が、リハビリの成果のためか車椅子を放置して立っている。
病院からこの川はとても近い。
ちょうど山の反対側に、病院はある。
彼がそこに入院していることもわかっていたけれど、ここにしたのは近くに絵の題材になるような空と川と山がここにしかないからだ。
そうなのだ。
でも、彼が来るなんて。
また、助けられるなんて、死なせてくれないなんて。
そんな、どうして。
どうしてあなたが私を助けるの?
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