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「お願い、死なないで」
自己犠牲が好きな人だった、と思う。
彼の言葉を聞いて思い出した。
私を助けたり、子供を助けたり、子猫を拾ったり、時には迷子の子供をその子供の両親以上に一生懸命探したりしていた。
そんなあなたが好きだった。
あなたはもういないと思っていた。
でも、やはり、あなたは変わらない。
変わらないことが、真綿で首を絞めるように、私をゆっくり苦しめていくのだ。
変わらないのに、変わっている。
私を知っている頃のあなたから、あなたは変わらないままだから、記憶がないことが信じられないのだ。
なんて罪な人なのだろう。
自分勝手だと、私は知っているのに。
「私は死にたいの」
私の顔を見て、あなたは気づいたみたい。
私が、なぜか家族でもないのにお見舞いに来たりリハビリを手伝ってくれる人だと。
「どうして?」
「ほら、」
私はそう言って空を見た。
あなたも同じように空を見る。
「太陽と月は、やっと同じ空に来れたと思ったら月が去るんだよ。私は、太陽といたかっただけ」
「……俺のせいだったら、ごめん」
「っ!」
私が驚いたのは、彼が記憶について言ったことでも謝罪したことでも、ない。
彼に、ぎゅっと──抱き締められたからだ。
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