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「えっと、あの、何で?」
私はすっとんきょうな声を出した。
確かに、さっきまで抱き締められたといえばそうだけど、あれは人命救助という目的があったから。
今は、ただただ抱き締められている。
あなたの背中の外にある、空が目についた。
もう、朝日が半分ほど見えている。
と、彼が言った。
「ここから、あなたの姿が見えた」
失敗した、と思った。
彼の病室から綺麗なこの橋と山と川が見えるから、ここにしようと思ったのに、彼が気づくなんて。
私らしくもない。
いや、本当は気づいてほしかったのかもしれない。
あなたにこうして、抱き締めてほしかったのかもしれない。
そう思ってしまったから、もう抵抗できなかった。
「……なんで、私を助けるの?」
せめてもの抵抗だった。
私と彼は何の関係もない。
関係ない人を助けるのが彼のいいところとはいえ、入院中の身で多少は歩けるとはいえ車椅子なのに、近いけれど外に出る必要があるだろうか。
看護師さんにでも声をかければ、どうとでもなったのに。
「自分で助けたかった。自分勝手かもしれないけど」
「……自分勝手なのは、私も一緒だよ」
彼が自分勝手だというのは否定しない。
私を置いて勝手に事故にあって、勝手に私のことを忘れたなんて婚約者相手にひどすぎる。
でも、私も私を忘れた彼を勝手に見捨てるのは、ひどすぎた。
そう思った時、彼が私のことを離した。
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