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「病院に戻る?」
私もこうしていれば、いつかは彼のことを忘れられるかもしれない、と思った。
仲のいい友人でいい。
それくらいの関係になって、彼とはときどき会う親戚くらいのペースで会えればいい。
もう自殺なんてしない。
代わりに、今の彼を見続けたい。
そう思ったから、彼にそう言ったけれど彼に手を掴まれた。
「あの、もうちょっと」
「病院の人が心配するよ?」
「そんなの、別にどうでもいい」
どうでもよくはないよ、と言おうとしたけれどその言葉は彼の言葉にふさがれた。
「あなたが、好きです」
「……冗談はやめてよ」
「好きです。つき合ってください」
彼の目は真剣だった。
真剣で、その告白が本当のことだとわかる。
と、雨が降った気がした。
頬が濡れたのだ。
涙だとわかったのは、目の前がにじんで見えなくなったから。
その告白が、記憶をなくす前の彼と一言一句変わらない告白だったせいなんだ。
私が、どうしようもなく彼が好きなせいなんだ。
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