淡い空

7/9

17人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
「病院に戻る?」  私もこうしていれば、いつかは彼のことを忘れられるかもしれない、と思った。 仲のいい友人でいい。 それくらいの関係になって、彼とはときどき会う親戚くらいのペースで会えればいい。 もう自殺なんてしない。 代わりに、今の彼を見続けたい。 そう思ったから、彼にそう言ったけれど彼に手を掴まれた。 「あの、もうちょっと」 「病院の人が心配するよ?」 「そんなの、別にどうでもいい」  どうでもよくはないよ、と言おうとしたけれどその言葉は彼の言葉にふさがれた。 「あなたが、好きです」 「……冗談はやめてよ」 「好きです。つき合ってください」  彼の目は真剣だった。 真剣で、その告白が本当のことだとわかる。 と、雨が降った気がした。 頬が濡れたのだ。 涙だとわかったのは、目の前がにじんで見えなくなったから。 その告白が、記憶をなくす前の彼と一言一句変わらない告白だったせいなんだ。 私が、どうしようもなく彼が好きなせいなんだ。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加