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恋してはいけない。
あなたにだけは、恋をしてはいけないのだ。
生涯でただひとりの人しか愛してはいけない、とはさすがに思わないけれど、あなただけは愛してはいけない。
だって、あなたはあなたではない。
前のあなたに恋をしていたのに、今のあなたにまで恋をしていいのだろうか。
許されるのだろうか。
「無理だよ」
「何で?」
「私は記憶を失う前のあなたと婚約していたって言ったでしょ? 今のあなたは愛せない」
「何で?」
「だから、私は記憶喪失になる前のあなたとつき合っていたの。だから恋なんてできないの!」
本音だった。
そんな縛りがなかったとしても、記憶喪失の彼に漬け込んでいるみたいで、嫌だ。
どちらにせよ、私はあなたを受け入れられない。
「僕はあなたが好きだ。今の僕が今のあなたを好きなんだ。それでも、駄目?」
「……駄目だよ」
いいと言えたらどんなに楽なのだろう。
「正直に言って?」
「……私は、あなたが好きだよ。それが前のあなたなのか今のあなたなのかわからない。だから、あなたと恋はできない」
恋なんて、できない。
できない、はずなのに。
あなたに抱き締められるだけで、私はあなたに恋をしてしまいそうになる。
駄目なのに、駄目なのに、私は。
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