つるべ落とし

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店内はカウンター席が五席、とテーブル席が一席と狭い為、カウンターに並ぶとこうして話しかけられることも少なくは無い為、驚きはしない。 「なんでしょうか」  椅子を引く際ギギと音を鳴らしながら顔を向ける。  女性は一度僕の顔から足を見てから、一度頷くと、やっぱりねと呟いた。この女性は頷く癖が有るのだろう。 「この間も来ていましたよね。この階段」  階段。  喫茶階段。  おかしな名前である。由来も何も階段と階段の踊り場に入り口が有るために、そう名付けた事は常連ではなくとも知っているが、不思議な場所にある。ここが何階なのか僕にも分からない。 「はい、来ていたと思います。僕も何となく貴女に見覚えがありました。コーヒー美味しいですよね」  心にも無い言葉を話す。 「そうでしたか。私はコーヒーでは無く、依頼です」  依頼。  依頼と言うと、そうか、そっちか。 「怪談でしたか」 「はい、私は東村第二小学校に務めております山北郷雨(やまきたごうう)と申します。貴方は霊媒者の宇和野大空(うわのそら)さんですよね。ようやく出会えました」  愛嬌のある顔で郷雨先生は微笑んだ。
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