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ほのかに香る一杯。
地獄の様に熱く、そして苦い。決して不味いとは思った事も無く、また旨いと思った事も無い、代り映えのしない味と風景。
カウンター席には常連となりつつある一人の女性が座り、小さな陶磁器から角砂糖を二つカップへ落とした。
見る見るうちに砂糖は地獄の中に沈み光りながら消えていく、カップに口を付けると女性は満足そうに頷いた。
照明は昔懐かしい裸電球により、店内を優しく照らす。ここに来るたび何処かノスタルジックに浸るのは裸電球ならではの温かさなのかも知れない。店長の拘りか、はたまた昔買いだめして残っているのかを聞くのは野暮だろう。
雰囲気、この店の雰囲気が好きである。
旨いとも思えないこの店にこうして、通ってしまっているのだから。
「ねぇ、貴方」
女性客が声をかける。
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