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明日の思い出
なだらかな山々の稜線がぐるりと周囲を包む、そんな緑豊かな町で、僕は少年時代を過ごし、大人になって都会に出て、そしてまたここへ戻ってきた。町はずれに横たわる川は、今も昔のまま。ごろごろとした石をよけながら、さらさらと流れていく。
川に架かる橋の上で、僕は金属製のひんやりとした欄干に腕を持たせかけて、次第に蒼さを増していく東の空を眺めていた。太陽は沈んだばかり。どこかに一番星が小さな光を放っているだろう。長くも広くもない橋。時折乗用車が低いエンジン音を唸らせて通りすぎる。
ふと僕の耳に、ゆったりとした靴音が聞こえてきた。いつものように、右側から。
僕の傍らで靴音が止まって、ひと呼吸おいてから、僕は顔を上げた。
いつもと変わらない君が、ふわりとした笑みを浮かべて僕を見つめていた。残照を受けた髪は栗色に、大きな瞳は金色に染まっていた。
「こんにちは」
柔らかな声音で彼女が言った。
「こんにちは」
僕も彼女に微笑んでみせた。彼女はほっとしたように目を細めて笑うと、僕の隣に並んだ。
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