明日の思い出

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「いつも、この時間に、ここにいらっしゃるんですね」  彼女の声は心地よい。ふわふわとした砂糖菓子のようだ。 「ええ、毎日、いますよ」  なんとなく照れ臭くて彼女から目を逸らし、だんだんと黒くなっていく山並みを見つめながら答える。ぽつりぽつりと、街灯がともる。  ちぐはぐとも思える会話だが、“彼女”が僕と会ったのは今日で2回目だから、まさか本当に僕が毎日ここにいるとは思ってなかったんだろう。彼女はちょっと驚いたように目をまるくして、それから「ふふふ」と笑った。  辺りはだんだん暗くなる。僕は握っていた欄干から手を離した。 「さあ、寒くならないうちに、お送りしますよ」 「え?」  彼女が不思議そうに眉を上げた。ころころと変わる表情が、なんとも微笑ましい。 「私の家を、ご存知なんですか?」 「時々、あの、配達で伺ってますので。ここから歩いて10分くらいでしょう?」  彼女は小首を傾げて考えている。僕はちょっと慌てた。 「あなたの家までは、街灯もあるし、今ならそんなに暗くないから。あなたを独りで帰らせるほうが、僕は心配です」
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