23人が本棚に入れています
本棚に追加
「いつも、この時間に、ここにいらっしゃるんですね」
彼女の声は心地よい。ふわふわとした砂糖菓子のようだ。
「ええ、毎日、いますよ」
なんとなく照れ臭くて彼女から目を逸らし、だんだんと黒くなっていく山並みを見つめながら答える。ぽつりぽつりと、街灯がともる。
ちぐはぐとも思える会話だが、“彼女”が僕と会ったのは今日で2回目だから、まさか本当に僕が毎日ここにいるとは思ってなかったんだろう。彼女はちょっと驚いたように目をまるくして、それから「ふふふ」と笑った。
辺りはだんだん暗くなる。僕は握っていた欄干から手を離した。
「さあ、寒くならないうちに、お送りしますよ」
「え?」
彼女が不思議そうに眉を上げた。ころころと変わる表情が、なんとも微笑ましい。
「私の家を、ご存知なんですか?」
「時々、あの、配達で伺ってますので。ここから歩いて10分くらいでしょう?」
彼女は小首を傾げて考えている。僕はちょっと慌てた。
「あなたの家までは、街灯もあるし、今ならそんなに暗くないから。あなたを独りで帰らせるほうが、僕は心配です」
最初のコメントを投稿しよう!