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もう元にはもどれないと分かってから、この日のことを何度も考えた。
廣ちゃんに別れようって言われたら、なんて言おうかと。
すう、とゆっくり呼吸をしてから、麻里はゆっくりと口を開いた。
「…私ね」
「もっと恋愛上手になってから廣ちゃんに出会いたかったなって
ずっと、ずっと思ってた」
もっと恋愛に失敗して、経験を積んでから出会えたら
この優しい人を幸せにできる彼女になれたかもしれないのに。
いつもと違う麻里の落ち着きように、廣太郎は驚いた顔をした。
「わかってると思うけど、もともと自分のことなんて好きじゃなかった。
でも廣ちゃんと付き合ってから、自分の嫌いなところがよりはっきりして。
廣ちゃんはすごくカッコよくて頭も良くて優しくてすごいモテる。
なのにあたしはバカで不器用で要領も悪くて。
廣ちゃんに相応しい彼女じゃないのは私が一番よく分かってたから、どうして私はこうなんだろう、なんでこんなに見た目も性格もブスなんだろうってそればっかり考えてた。」
廣太郎は何か言いたげな顔をしながらも、麻里の顔を真っ直ぐ見つめている。
「見た目がもっと美人で可愛くて、並んでてお似合いな人だったら。とか、もっと頭が良くて廣ちゃんを支えられる人だったら、とか何度も考えた。
自分なりに努力したつもりだけど、全然廣ちゃんには追いつかなくて。
そうしてる間に素敵な人が廣ちゃんの前に現れたら、きっと私は捨てられるって怖かったの。
そうやって不安になってわがまま言って許されるたびに、自分のブスさが更にわかってすごく情けなかった。廣ちゃん、きっとしんどかったと思う。
…今まで本当に、ごめんね」
麻里の言葉に、廣太郎は思わず俯いた。
「…廣ちゃん、最後にこれだけ言わせて」
「今まで、本当にありがとう。」
「私の初めての彼氏になってくれてありがとう。こんな私を3年も大事にしてくれてありがとう。いつも優しく包み込んでくれてありがとう。自信を持たせようとしてくれてありがとう。
なのに私は全然、廣ちゃんのこと大事にできなかった…」
堪えきれず、涙がこぼれた。
泣かないって決めてたのに。
すると、テーブルの上でぎゅっと握りしめていた手を廣太郎の手が優しく包んだ。
「…麻里。聞いて。」
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