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「…その、ずっと変な嘘ついててごめん、洋子」
「いいよ全然。人間言いたくないこともあるだろうし。むしろ話してくれてありがとね」
洋子の目の色が柔らかくなり、少しホッとする。
「…なんか、相談と言うより誰かにこのことを話したかったというか、知ってて欲しかったというかそんな感じなんだけど…
ごめん。まとまらなくて」
「うんうん、私でよければなんでも聞くから。どんどん吐き出して?」
そう言いながら洋子は香織の腕をさすった。
「…なんか、絶対的に彼女の方が好きじゃんって思っちゃって。一気に信頼がなくなってしまったというか…」
「そりゃ…そうでしょ。しかもあいつ一切浮気とかしなそうじゃん。そういう相手から裏切られたら尚更でしょ。まっつんよく頑張ったよ」
洋子の優しさに、涙腺が緩む。
「…なんか、これからどうしたらいいんだろうって考えたら収拾つかなくて。連絡もないし」
思わずはは、と乾いた笑いがもれる。
「…廣太郎からしたら、私とは自然消滅ってことで彼女とよろしくやってるんじゃないかな。分かんないけど。」
その香織の言葉に、洋子は驚いた顔をした。
「…まさか、知らないの?」
「え?」
「あいつ彼女と別れたらしいよ?」
「……………え…?」
「割と最近。その連絡もないの?」
慌ててスマホを開くが、相変わらず通知はゼロのままだ。
洋子は投げやりにため息をついた。
「…意味わかんない。あいつ、何のために彼女と別れたの?何考えてんの?何がしたいの?」
香織が口にできなかったことを、洋子が全て言葉にしてくれた。
…分からない。
廣太郎のことが、どんどん分からなくなる。
私が知ったつもりだった廣太郎は、誰だったの?
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