この軀から、溢れんばかりの愛を。

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「あれ? 瀬戸口さん指輪してるー」 去年入社した二十歳の後輩は透明な瞳で私の小指を覗き込む。 「あ、うん。気に入ったから」 「似合ってるわよ、それ」 定年間近の上司の微笑が優しくて気恥ずかしい。 「旦那さんですかー?」 色んな答えがあるとは思うが、私は肯定できないタイプだ。 「まだ……彼氏。今本島にいるの」 「あ、じゃあ結婚されるんですね!」 「そうなんだけどね、本当は去年の春に籍を入れる予定だったんだけど向こうの出張が決まっちゃってさ。それで今年帰ってくる予定だったのにまた伸びちゃって、お預けくらってるの」 「そうなんですねー……」 さっきまで瞳を輝かせていた後輩の表情に、靄がさす。
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