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「よく、頑張ったね」
電話越しではなく耳に直接響く声が、心臓を止めてしまうかと思った。暖かさを感じるのだけど本当は私が創り出した幻覚か何かかもしれないと馬鹿みたいな妄想をしたせいで、身体に力を入れられない。
「あ……崇仁……」
「おかえり」とか「元気だった?」とか言いたいことは沢山あるのに、感情が追いつかない。
「結婚しよう。今すぐに」
やっと彼の広い背中に手を廻すと、その名を呼びたくてたまらなくなった。
「崇仁、崇仁……!」
壊れた人形の如く名を繰り返す毎に、彼の腕は強くなる。
「大丈夫。もうずっと、側にいるよ」
まなじりから零れる熱い液は涙だった。今更になって私は、崇仁を軀全体で愛していることを思い知る。
「ただいま……」
野暮なことは言わず「おかえり」と言って髪を撫でてくれる彼に顔を見せると、「そんな顔でも世界一可愛いね」といつものように微笑んでくれた。
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