この軀から、溢れんばかりの愛を。

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私の住む場所はいわゆる離島で、交通の便はすこぶる悪い。コンビニは辛うじて車で行ける範囲に三軒、スーパーは一軒、服などを買いに行こうと思ったら船旅往復三日は必須だ。 会おうと思えば崇仁に無理をさせる。贔屓目無しで優しい類いの人だから、ワガママを言えば会ってはくれるだろうけれど。 見送りの港で持ってあげていた荷物を渡しながら言う。 「無理して帰って来なくてもいいからね」 崇仁は苦笑いを浮かべながら喉を鳴らした。 「いつもそれだ。偶には、『崇仁がいないと死んじゃうー』とか言ってくれたらいいのに」 「言っても出張は無くならないよ」 「はいはい、じゃあ行ってくるよ」 崇仁は荷物を一旦置いて私をぎゅっと抱きしめる。笑顔で手を振りながら船に乗り込む彼に「危ないよ」と一声掛けてそれが最後だった。 彼を乗せた船を見送る私を扇ぐ風は、春風と呼ぶには肌寒い。 「……あったかかったなぁ」 彼の腕に戻るのは、来年の春。
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