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崇仁が帰ってくるまであと二週間の金曜日だった。スマートフォンから彼のお気に入りのJ-POPが流れて首を傾げる。平日の夜に彼から電話が来ることはないからだ。
「……もしもし崇仁?」
「ごめん」
崇仁は悪いことがあったら一番に謝罪を口にする。続く言葉を聞きたくないと思った。
「……どうした?」
「出張が延びた。一年」
私は壁に掛かったバツ印が付いたカレンダーをぼんやり眺める。
平気な態度を取らないと崇仁が心配するから即答に努めた。
「そっか、仕方ないね」
「本当にごめん。次に来る予定だった奴が、親の介護で来れなくなったんだ」
その理由なら、断れるはずがない。
「いいよいいよ。その人の分まで頑張ってあげな」
「また連絡するから」
電話が切られた後力任せにテーブルを叩いてしまい、鈍い音に顔を歪めた。
「……いやいや私、人でなしか」
ここ一年で、随分独り言が多くなったと思う。多分、自分の声を自分の耳に直接届けないと理解出来なくなったからだ。
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