この軀から、溢れんばかりの愛を。

8/17
前へ
/17ページ
次へ
崇仁が帰ってくるまであと二週間の金曜日だった。スマートフォンから彼のお気に入りのJ-POPが流れて首を傾げる。平日の夜に彼から電話が来ることはないからだ。 「……もしもし崇仁?」 「ごめん」 崇仁は悪いことがあったら一番に謝罪を口にする。続く言葉を聞きたくないと思った。 「……どうした?」 「出張が延びた。一年」 私は壁に掛かったバツ印が付いたカレンダーをぼんやり眺める。 平気な態度を取らないと崇仁が心配するから即答に努めた。 「そっか、仕方ないね」 「本当にごめん。次に来る予定だった奴が、親の介護で来れなくなったんだ」 その理由なら、断れるはずがない。 「いいよいいよ。その人の分まで頑張ってあげな」 「また連絡するから」 電話が切られた後力任せにテーブルを叩いてしまい、鈍い音に顔を歪めた。 「……いやいや私、人でなしか」 ここ一年で、随分独り言が多くなったと思う。多分、自分の声を自分の耳に直接届けないと理解出来なくなったからだ。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加