宝、24歳の秋

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 碧は私の目をそらし、高い夜空を見上げた。  私もつられて空を仰ぎ見る。  今夜は月がとても綺麗…  「最低でも、一年は戻ってこない。  それを父さん達にも伝えに来た」  月を見上げながら、これまでの碧との日々が走馬灯のように頭の中を駆け巡る。  可愛い可愛い私の弟…  誰よりも愛している、弟として、家族として…  そうやって何百回も何千回も自分に言い聞かせた。  幼い頃からそうやって自分の気持ちに鍵をかけて、今ではその本当の気持ちを解き放つ術を忘れてしまった。  私の止まらない涙を碧は親指で何度も拭ってくれる。  涙だけは、私の偽りの気持ちにいつも歯向かった。 「宝…  俺は、プロとして完璧に生活が成り立つようになったら、宝を迎えに来ようと思ってる。  その時は、ちゃんと、父さんや美代子さんにも分かってもらえるように、逃げないで説得して宝を自分のものにしたい。  だから、それまで待っててほしいんだ…  宝が待っててくれるなら…」  輝く月は、碧と一緒に私の返事を密かに待っている。  そして、碧の最後の告白だと、その月は、私にさりげなく教えてくれる。  しばらく黙っていた私は、我慢できずに碧に抱きついた。  夜空はあの月が満天の星を連れて来たみたいに本当に綺麗で、私は碧の腕の中で空を見上げる。 碧と一緒になりたい… そんな風に素直に思えた、初めての夜だった。
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