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碧、18歳の冬
碧、18歳の冬…
「碧~~~」
俺の家は、道路を挟んだ目の前に海がある。
子供の頃はこの海でかなり波乗りを楽しんだけれど、プロ級に成長した今の俺にはプールで遊んでいるようなそんな感覚だった。
でも、今日の俺は、海をずっと見ていたいそんな気分だ。
冬の海は少しだけ荒々しく変則的に打ちつける波の感じは、まるで、今の俺のようだった。
滅多に海には出て来ない宝が、珍しく砂浜の方まで俺を呼びに来た。
その理由は悔しいほど分かってる。
「今日はあったかいね…
サーフィンはやらなかったの…?」
宝は国道沿いにある自販機で買った甘い缶コーヒーを、俺にそっと渡す。
俺は黙ったまま、温かい缶コーヒーを握りしめる。
晴れ渡る空から差し込む陽射しに、冬の海はキラキラと美しい模様を漂わせている。
「碧…
私、決めたんだ…
さっき、お父さんにもそう話してきた」
陽がさんさんと降り注ぐ岩を選んで座っていた俺の隣で、宝は少し寂しそうにそう言った。
「私が一人暮らしをするから…
だから、碧は家を出て行くなんて言わないで」
ほら、始まった…
宝はいつでもお姉ちゃんになりたがる。
俺の気持ちとか自分の気持ちとか、俺達にとっては大切なものとか、勝手に胸の奥底に閉じ込める。
俺は隣に座る宝に目もくれずに立ち上がった。
そして、宝を置き去りにして、波打ち際へ歩き出す。
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