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宝、24歳の秋
宝、24歳の秋…
「宝、お帰り」
その日は、上司に残業を頼まれて遅い帰宅だった。
人通りがまばらになった駅の改札を出ると、そこに半年ぶりに見る碧が立っていた。
「あ、碧…?
どうしたの? いつ帰って来たの?」
私は夢かと思った。
家に寄りつかなくなった碧が、半年ぶりにこの街に帰って来たから。
そして、いつものように、私を迎えにこの駅で待っていてくれたから。
あまりにも突然の出来事で、私の目に涙が溢れ出す。
「ほら、またすぐ泣く…
泣く前に、碧、お帰りなさいだろ?」
十月も半ばになると、夜と昼の体感温度が違う。
薄手のカーディガンしか着ていない私の肩に、碧は自分の着ていたパーカーをかけてくれた。
いつもと何も変わらない碧…
小さい頃から私にはとにかく甘くて心配性な碧…
碧が突然いなくなって、私の中の何かが壊れた。
寂しいとか会いたいとか、そんな簡単なものじゃなかった。
「お帰りなさいとか、言いたくない…
長期の遠征に行ったきり帰って来ないなんて、酷いよ」
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