2人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
目元を覆う白い仮面をつけた男が、手を差し出しながら不敵にわらう。
覗く瞳はひどく楽しげ。
浴びる光は冷ややかに。
観客など私しかいない。その舞台から微笑みを零す彼は、うつくしい所作で膝をついた。
引き寄せられるように近づけば、弧を描く瞳は緩やかに冷たい色を滲ませる。
「さぁ、手を」
「…今日、だけですから」
どこまでも酔狂な人だと手を重ねてしまったが運の尽き。予想通りと頷いた彼を、彼のこの表情を、知っているのは私だけがいいと思わせる。
全てを自分中心に動かすことができると自負する彼に、いまだけはと気を許してしまう。
「それはどうだろう。きっときみは逃げないよ」
キザなせりふで囁かれると調子が狂うみたい。
だから、と勝手に結論づけて目を細めると、
彼はこの上なく、うつくしく冷たい微笑みを浮かべた。
最初のコメントを投稿しよう!