7人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの」
それは通り過ぎる寸前だった。
今まで はるか遠くで見ていたあなたが
ずっと近くで 俺を見つめていた。
「毎日、通っていらっしゃいますよね?」
あなたは、最近引っ越してきたばかりだった。
職場と自宅をつなぐ道
人混みにも 慣れた頃だと 笑っていた。
俺は 敬語とタメ口の混沌とした表現で
なんとか自分のことを話した気がする。
あなたは包み込むような微笑みで聴いていた。
溢れる喧騒も
このときばかりは 聞こえない。
聞こえるのは
あなたの軽やかな 柔らかい声。
最初のコメントを投稿しよう!