第一章

3/8
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
「先輩、あの建物は…。」 サミュエルが指差した先には、牛小屋のようで実はそうではなさそうな建物があった。その建物がある敷地内は解放されている。 「行ってみようか。人がいるかもしれない。そこでここのことを詳しく聞けるかも。」 モニカは好奇心を隠さない表情を浮かべながらでサミュエルに言った。 「ええ。そうですね。」 そんな彼女に、サミュエルは微笑む。 モニカとサミュエルはその建物がある敷地内へと入っていった。 *************** 「嘘…閉まってる。」 「ああ…今日が土曜日だからかもしれませんね。」 敷地内に入り、牛小屋のような建物の入り口の方へとまわってみるとそこにはガラスのドアが閉まっているのが見える。また、扉の隣には何台か木製の牛の形をしたオブジェが置かれている。そのドアに取手に手をかけてみるとドアは開かない。中から鍵がかかっているのだろう。さらに室内が見えなくなっている。 そんな状況を目にした二人が今、残念に思っているところだった。 「先輩、そこら辺を歩いて人を探しますか?」 「待って。これ、いい話が書ける材料になるかもしれない。」 「あ…。」 モニカが小屋の入口のドアからみて西の方向を指差してそう言うと、サミュエルもそちらに視線をやった。その視線の先にあった光景を目にした彼は目を見開く。 そこには、広漠とした緑の牧場が広がっていた。その真ん中あたりには白く長い柵が奥の方へと連なっている。 そこは部外者は入れないようになっているが景色を眺めることができるだけでも満足できるものであった。 “確かにこれは先輩の言う通り脚本を書くいい材料になりそうだ。” その目の前の景色に息を飲み、サミュエルは思った。 「ちょっと車から道具を持ってきたいから鍵借りていい?」 そんな彼に、モニカは上機嫌な様子で言った。 「いいえ。ご一緒します。」 サミュエルは真剣さの含まれた声色で言った。彼はこの目の前の先輩且つポーランドの脚本家の一人の女性…といった(かなめ)の存在に何かあったら大変なことになると思い、彼もモニカについて行くことにしたのだ。 「護衛みたいなことを言うね。」 モニカはきょとんとしながら言う。 「そうですか?」 「そうだよ。そんなことより早く行こう。」 「は、はい。」 二人は一度、車に戻ることにした。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!