3人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
この橋だけは、通りたくないと思っていたのに。
俺はそんな思いで、車のアクセルを踏み込んだ。
此処は自殺スポットとして有名な橋だ。そして、沢山の怖い話も此処で生まれる。この橋を通ったら車に血の手形が無数に付いていたとか、気付いたら車中に血まみれの女が座っていたとか。
ビビりな俺は、半ば目を瞑りながら、アクセルを踏んでいた。
次の日、あの橋は大騒ぎだった。
橋の下の川から、女の死体が上がったのだ。
また自殺か、と溜息をつく野次馬の中、俺はぼんやり考えていた。
あの夜、俺はこの女を轢き殺してしまったのだ。しかしあんまり怖くて、俺は止まらずに走り続けた。
絶対に幽霊だ。本物な訳ない。そう信じて。
俺の希望は、この瞬間に打ち砕かれた。この女は、確実に俺が轢き殺した女だ。
暫くして、俺の家に警察がやって来た。どうして分かったのか、俺はあっという間に逮捕された。
ところが刑事達は俺に大した叱責もしなかった。俺は妙な感じを覚え、ずっと気になっていた事を口にした。
「あの……俺、轢きはしましたけど、川に捨ててはないんです」
すると刑事は、大きく頷いた。やっぱりな、そう言わんばかりに。
「……実は、お前が轢いた後、女はまだ生きていたんだよ」
「え?」
刑事の言葉を、俺は一生忘れられないだろう。
「女は死にに来たんだ。あの橋に。恋人に振られたからって、部屋に残っていた遺書に書かれていた。お前に轢かれたけど、それだけじゃ死ねなくて、どうしても死ぬ為に、あの橋から飛び降りたんだ。腕や足や首が、明後日の方向を向いた状態で、自分から……」
想像してしまった女の姿が、今も俺の脳裏にこびりついて離れない。
最初のコメントを投稿しよう!