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Why
「オレな、とーくにいくんだよ! 誰もしらないとこでさ、とーいとこだ、
そこでオレはな、でっけー男になって——」
いつだったか、ガキだった俺は絵理にそんなことを語った気がする。
その時からだ。
絵理が哲学者になってしまった。
「ね、どうして、人には足がついてるか、わかる?」
見ろ、すぐこれだ。
同じ年に生まれて、幼稚園の頃から今日まで、一緒の時間を過ごしたはずなんだけどな。どうやったらこんな変人に育つんだ。俺はこんなにまともなのに。
「そりゃあ、お前、遠くに行くためだ」
あ、ちょっと、俺、かっこよくね?
「ぶっぶー、外れ」
「あー? じゃあなんなんだよ」
「人はね、足がついてるから遠くにいくんだよ?」
「はぁ? 同じじゃん」
そこまで言って、毎回気づくんだよ。あ、これ、この前と同じパターンだったな、って。次は絶対覚えてて、当ててやろう、って。
でもな、毎回毎回、忘れた頃に言って来やがる。
俺は毎回バカみーてに、ぶっぶー、って言われんだよ。
でもな、今日は覚えてる。
俺が東京に出る日だからだ。
絵理は絶対に言ってくる。
ぶっぶー、って言いたいだけの女だ。
そういうやつだ、俺は知ってるんだよ。
よく知ってんだよ。
「新幹線来たね」
そう言った絵里がガラガラと音を立てて、俺の隣に立ちやがった。
「お、おう」
なんか緊張するな。
今日はこいつの、ぶっぶーが、聞けないのか。
そうか。
まあ。
うん。
別に最後じゃねえし。
GWは帰ってくるし。
いいか。
勝たせてもらうぜ。
「じゃあ、もう行くぞ」
俺は新幹線に乗り込む。
おいおい、言わないのか?
ドア口で振り返って言ってやる。
「俺はな、でっけえ男になって——」
「ねえ」
来た!
「どうして、人には足がついてるか、わかる?」
「人は、足がついてるから、遠くにいくんだろ?」
よし!! 言えた!!
「ぶっぶー」
くそ、ニヤついちまった。
なんだよ! ちげーのかよ! ふざけんなよ!
なんで俺笑ってんだろうな。
あ、でも、ここで笑う俺、ちょっと、かっこよくね?
よし。
「あー? じゃあなんなんだよ」
「好きな人がね、遠くに行っても追いかけられるようにだよ」
好きな人を乗せた新幹線のドアが閉まった。
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