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「俺、またレオさんとお話ししたいです。ゲームのこと、もっと知りたいし……新ステージもなかなかできないから、レオさんの実況見て勉強しとくから……。一緒にゲームしましょ?ね?」
だめ?とまたその顔面で押し切ってくる推しに耐えきれず、怜音は俯く。すると、雅久は怜音の前髪をそっとあげ、レオさんってやっぱり可愛いよね、と言いだす。
「か、かわ……っ?」
「うん、昨日もめちゃくちゃ可愛かった」
「??」
雅久の言っている意味がわからず、何、と思っていると、下から掬いあげるようなキスをされる。
そう……キスだった。そのままベッドにトンと押し倒されたことに気づくのが遅れるぐらいには。確実にキスだった。
「え………」
「昨日も、めちゃくちゃ可愛かったよ?」
ほうっと熱い息を吐いて、また同じセリフが繰り返される。自分が「好きだな」と思った声が低めのトーンで自分の名前を呼ぶ。「怜音さん」と呼ばれた本名にビクついた。それを見た雅久は小さなため息をついて体をおこし、立ち上がって荷物をとった。
「レオさん、昨日のこと、本当に覚えてないんですね」
「あ……」
「別にいーんですけど」
「な、なに?」
少しの沈黙。そのあと、雅久は、なんでもないです、と目を伏せた。
「でも、まじでレオさんとゲームはしたいんで!」
パッといつものような明るい顔で、人の良さそうな垂れ目が細くなって笑う。その顔を見ながら、怜音の心音はどくどくと鼓動を早めていった。
(え、何……なに?)
少し寂しそうな目をした雅久は、また連絡しますね、と笑ってスマホをとる。
「あ……ほ、ホテル代……っ」
「いいです。俺、オンラインで決済しちゃったし」
「の、飲み代!あ、お金、ここに現金……っ」
「いりませんー」
じゃ、先に出ますねーと雅久は怜音に手をふると、ホテルの部屋から出ていってしまった。一人で部屋に残された怜音は呆然としたままベッドからずり落ちる。
(な、なにされ、た……?さっきの……)
柔らかい感触だった。おそらく、いや、確実に、目の前にいた恩田雅久の唇の感触。
唇と唇が触れ合う。つまり、物理的に実際的に、結局のところ……
(俺、何された!?)
いや、だから、キスだって、と怜音の中のもう一人が突っ込む。一斉に脳内会議が始まるが、結論も出ないし、何も整理できない。昨日から散々だ。心の中をかき回されて、夢であるなら夢であると早く誰かに引っ叩かれたい。変なこと妄想してんじゃねえよ、と自分の中の自分が何度も殴ってくるけれど、この夢は覚めそうにないのだ。
途端、鳴りだしたスマホの音にビクついて、慌てて自分のスマホを確認する。ベッドのサイドテーブルに置かれていたそれに、幾つものメッセージがLINEで入ってきていた。
「あ……」
【雅久です】
【連絡先、一応ちゃんと交換したんで】
【勝手にじゃないですよ】
ポンポンと入ってくるメッセージのプレビューが怖くてアプリもひらけない。そもそも、LINEなど家族とぐらいしか使わないから、そこにトーク画面が増えたことすら信じられない。
(いや、まじで頭いた……何が起こってんだって……)
はあ、とため息をついた瞬間、雅久からまた新しいメッセージが届いた。画像が送信されました、の通知と【レオさん、可愛かったです】の文字に恐る恐るアプリを開く。
「っ!?」
画像を開いた瞬間、怜音はバスルームに飛び込み、鏡前でTシャツの首元をぐっと下ろし、呆然とする。
送られた画像の中、すっかり眠っていた怜音と同じく、其処にはうっすらと赤い鬱血痕が残っていた。
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