第1話

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(いや、やばいやばいやばい、精神的にオワタオワタオワタ、オフ会どころじゃねえ、俺抜けよ……!落ち着け……落ち着け、俺、いや、向こうは俺のことなんて知らないんだから、冷静に!自然に!失礼のないように抜ければ問題ない!)  ちょっと、と幹事をしている昔からの知り合いに声をかけようとすると、その前に、「あ!」と爽やかな声が聞こえてくる。その声は、自分が何度も見た舞台円盤から抜け出てきたまんまの、その、声。  やべーな、俺の推し、アニメ声優もできんじゃね?有能すぎんじゃん、俺の推しぃーなんて密かに思っていたその声が、「レオさん?」と自分のゲーム中での名前を呼ぶ。 「俺、ミヤビです!レオさんにはいつも助けてもらってて、プレイうまくて憧れてます!」  実況動画も大好きでー!と笑顔で迫ってくる雅久に、怜音は完全に固まってしまった。  推しが、自分の手を、握りしめている。(※しかも向こうから) 「ってか、ミヤビちゃん、女の子と思ってたのにさー」 「ほんとだよー!全員で期待してたのに、まさかこんな大男なんて」 「ははっ、すみませんー!」  しかも、なぜか打ち解けている。  この、オタクの巣窟に。おそらく、いま、日本でトップクラスのリア充パリピな男が。(※あくまでイメージです)  怜音は、あの、その、とうまく返せないまま、幹事の方を見るが、向こうは向こうでオフ会代の集金などに忙しくて全くこっちを見ていない。いつの間にか他のメンツの紹介なども終わっていたのか、雅久は怜音の手を離さないまま、まっすぐ彼を見て微笑んだ。 「俺、レオさんのこと大好きなんです!レオさんが珍しくオフ会参加するって聞いたから、今日も参加を決めたんですよ。色々教えてくださいね?」  ああ、なんて贅沢なのだろう。  それはわかっているのだけれど。  怜音は自分の脳みそのキャパシティが超える音を聞いた。おい、レオ!?と知っている声が遠くに響く。そうして怜音は、「推し」に手を握られたまま、その場で後ろにぶっ倒れた。
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