第2話

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(たまにこういうのも楽しいな)  久しぶりに世間に出てきたが、推しがいるということを除けば、いつも通り楽しいオフ会だった。頻繁にされるのは困るけれど、こういう機会は自分が一応社会にいる「人」なのだと思い出せてホッとするような。普段、ネットの波でしか生きていない怜音にとって、外とのつながりを再認識できる場でもある。 (まあ……びっくりしたけど……今回限りと思えば)  ミヤビはもともとそこまでログイン数が頻繁ではない。忙しいんだろうなとも思っていたし、レギュラーのチームメンバーではないので、怜音も気にしていなかった。仕事も忙しいだろうし、一時の暇つぶしとリフレッシュにゲームは良かったのだろう。まあ、楽しそうで良かったな、こんな一面が見られたのも役得というか何というか……と、自分でこの場を受け入れ始めていたとき、そろそろお開き、という時間になってしまった。 (あー……いいもの見れた。すげえよ、推しの顔を合法的に眺められるとか、そんなことあるか!?)  帰りに事故に遭わないようにしなければ……とオタク特有の思考で考えていると、ワイワイしている部屋の隅に、あのあの、と雅久が寄ってきた。 「レオさん、二次会行きますか?」 「え?ああ……俺はもう帰ろっかなって。二次会、メンツ的にメイド喫茶とかでしょ。俺、あんまりそういうのは苦手だから」 「あっ、そうなんですね。俺も……ちょっと、女の子いるところはまずいんで、失礼しようかな」  いや、まあ、そりゃそうだろう。密室でのオタ男集まりならばともかく、若い女子がいたらバレるに決まっている。じゃあまた……と言って、桜庭に声をかけて去ろうとすると、あのあの、とまた雅久が声をかけてくる。 「あの、レオさんってお酒飲みますか?」 「?普通には……実況する時に缶チューハイかビール開けるぐらい、ですけど……」 「あっ、そうですよね!よくプシュって音してるし、じゃなくて!その……まだ時間あるなら」  俺と二人で飲みに行きませんか?  もっとお話ししたいです、と伊達眼鏡の奥から目尻を赤くして見つめてくる。どこに大好きな顔面からそんな言葉を聞いて断れる男がいようか。いや、しかし、怜音はそこでも相当チキってしまう。  そもそも、推しがいただけで死にそうなのに、これから?二人きり?話し?ん?と、視界の端で桜庭や古い知り合いを探すが、そっちはもうメイド喫茶に予約を入れ始めていた。ふらっと倒れそうなのを我慢して、いや、でも、俺、話すの苦手……と逃げようとすると、雅久が怜音のきているシャツの裾をキュッと握る。 「俺、しばらく休みなくて……。ゲームにもなかなか上がれないから、レオさんともっとゲームのお話ししたい……です……」  ダメですか?と、その顔で可愛らしく首まで傾げられた日には。  息が止まりそうなのを必死で抑え、コクリと頷くことしかできなかった。
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