第3話

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 雅久に誘われたのは半個室のチェーン居酒屋だった。ゲームの話をしていたのは覚えている。外で飲むのなんて久々で、メニューもろくにわからず、任せきりにしてしまった。年上の威厳も何もあったものではない。雅久が最近ビールだけじゃなくて日本酒を飲めるようになったから、飲みたい!と言い出して、ソシャゲのガチャを回しながら、二人で日本酒を飲んだのだ。しかし、怜音はあまり日本酒を飲んだことがなく…… (店の記憶がない……途中からは何を話してたのかも覚えてない……っ)  今の自分の状況を鑑みるに、おそらく、酔い潰れて吐き、その洗濯までさせた、ということなのだろうか?推しに?まじで?と考え、怜音は頭を抱えて俯いてしまった。  穴があったら入りたい。いや、今すぐ消えたい、とベッドに突っ伏しそうになる。 「レオさん?」 「……ご、ごめんなさい……俺、本当に記憶がなくて……」 「へ?いや、いいっすよ。俺、酔っ払いの相手慣れてるし。レオさんなんて可愛いもん……」 「いや!!ちょ……まじで……まじですみません……。いろんな、い、いろんな、お世話を……っ!」 「お世話って。全然平気っすよ。それより、時間大丈夫ですか?仕事とか……」 「あ、それは、平気……うっ……」 「ああ、もう……とりあえずこれ飲んでお酒薄めてください」 「うう……」  情けなくて死にたくなるとはこのことだ。怜音は雅久から渡された水を飲むと、そのあと、二日酔い対策ドリンクをなんとか胃に入れた。 「吐いたって言っても、ホテル着いてからだし、トイレに吐いてたから……。俺がついでに洗っちゃおーって持っていっただけで、気にするほどのことしてないですし。それより頭痛治らないなら、俺、何か薬とか買ってきますけど、大丈夫ですか?」 「いや!い、いいです!これ以上は!本当に!」 「ほんと?無理してない?遠慮しなくていいんですよ?」 「……へ、へ、へ、平気だから!」  寝起きでうっすらとした髭面なのに、なんでこんなに爽やかなんだ!?と推しのイケメンオーラにあてられながら、怜音は必死で気持ちを落ち着かせた。下着もなく、全部脱がされたということは、全部見られたということで。いや、男同士なので見られたも何もない気がするし、向こうは洗濯までしてくれたのだ。ばくばくと心臓が壊れそうなほど高鳴り出してくる。 「あ……し、下着とか……バスルーム、かな……。俺、シャワー浴びがてら取りに行こっかな……」 「昨日、一応一緒に入りましたよ。その時はレオさんも吐いてちょっとすっきりしたのか普通っぽかったけど」 「!?は!?い、一緒!?」 「?はい。もう待つの面倒だし、一緒に洗っちゃおうってなって」 「!?」  怜音は顔を抑えて、待って、とまた何度目かわからないことを脳内で繰り返した。待って待って待って待って、いや、まじで待ってよ、どういうこと!?  その答えはどう考えても自分の中にはなく、自分から消失した記憶の中で、何かイベントが起こっていたらしいということしかわからない。
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