覇王の横顔

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 三年後、ミエザでの学業を終えた我々は、ペラの王宮へ帰還した。  王フィリッポスのビザンティオン遠征のため、十六歳のアレクサンドロスが摂政として据えられる。我々学友一行は、側近として王子の補佐を命じられていた。  王子はこの三年の間に、見違えるほど成長した。  体躯は立派で頑健になり、左右で色味の異なる双眸は神秘的な魅力を宿し、彼という人物を特別な存在だと一層、印象づけた。  美しい子どもは、美しい青年へと変貌を遂げていた。  王という重石が不在の時期を狙って、トラキア地方の土着民であるマイドイ族が反乱を企図した。学友連中が顔面蒼白で立ちつくす中、アレクサンドロスは一人、慌てることなく、粛々と軍の出動を命じた。自ら鎮圧に臨み、鮮やかに現地を平らげる。  反乱の拠点であった街を手に入れ、ギリシアの人々を入植させた。一同が瞠目する中、驚くべきことに、この新しい都市を『アレクサンドロポリス』と命名した。  十六歳の王子は、街を建設することで自らの名を残した。  地図と歴史の両方に名を刻む。永劫に轟く名声を求め、不死の存在でありたいと願った、少年の日の願望実現の第一歩となった。  アレクサンドロスは残りのたった十六年の日々で無敗の常勝を誇り、前人未到、空前絶後の大遠征を成し遂げることになる。  王子アレクサンドロスの学友として、後には大王の側近護衛官の一人として大遠征をともにできたのは、私プトレマイオスにとって、この上ない名誉であり、幸運なことであった。  後年、アレクサンドロスの名を冠する都市を手中にした私は、彼の元でかけがえのない日々を過ごしたことを、懐かしく思い出すのである。
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