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高石との意外に快適な同居生活を始めてから、かれこれ二十日が過ぎようとしているが、相変わらずの快適ぶりだ。
そんなことより、最近の俺はちょっとどうかしていると思う。
その要因は、遡ること数日前のこと。
高石とは別の同期である山岡(男)と例の居酒屋で呑んでいたときのことだった。
「お前さぁ、高石とはどうなんだよ? お前ら、噂になってるぞ? 同棲までして、いよいよ結婚秒読みじゃねーかって。……で、高石のこと狙ってた村上が『"菅のことなんてなんとも思ってない"って言ってたクセに』って俺に泣きついてくる訳よ」
「……はっ!? ないない。俺らそんなんじゃねーよ。高石の部屋の修理が終わるまでの間居候させてるだけだしっ」
「そのことなんだけどな、林(同期の女)に聞いたんだけど。林、一月前に彼氏と別れてるらしいんだ。おかしいだろ? 高石と林仲良いのに。……あっ、お前、高石に狙われてんじゃねーの?」
酔って悪ふざけのすぎる山岡に、
「んな訳ねーよ。林が失恋してすぐで言い出しにくかっただけだろ?」
そうは返したものの、なんだかモヤモヤして、まるで霧のなかにでも迷いこんだような気分だった。
……まぁ、でも、俺と高石の仲だ。高石に限って、山岡が言うようなことはない筈だ。
そう自分に言い聞かせるつもりが、『菅のことなんてなんとも思ってない』らしい高石の言葉に、"面白くない"と思ってしまってたことが浮かんで。
……いやいや、ないない。ある訳ねーじゃん、と、心の中でそう唱えた。
そんな俺の気持ちとは関係なく、日常は続いていく訳で……。
今日もこうして、仕事を定時で終えた俺と高石は最寄り駅で降りてから、夕陽で茜色に色づいた街並みをとりとめない会話を交わしながら、家路を歩いている。
このところ仕事も落ち着いてて、もう何度もこうやって、一緒に帰っているからだろうか?
隣に彼女が居ないときにも、こんな夕暮れどきになると、ふと、彼女のことを思い浮かべてしまってたりして。
こんな風に、隣に並んで歩いていると、不意に彼女のその手に、無自覚に、自分の手を差し伸べようとする自分に、ハッとして、慌てて手を引っ込めたりする始末
……って、おいおい、俺、今、なんつった?
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