迫り来る者

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迫り来る者

ある夏の日の昼下がり、下弦白夜は何者かに後を付けられていることに気が付いた。常にねっとりとした視線を浴びせられているように感じる。今にも暗い沼に引きずり込まれそうな思いだ。 「どうして、付いてくるんだ?」 白夜は振り向き、問いかけてみた。真の姿を現さない謎の存在との対話を試みる。しかし、奴はいつまで経っても返事することはない。全く対話する意思を感じられなかった。 時間を空けて何度か尋ねるが、やはり返事はなく、辺りは静寂に包まれる。冷戦時代のような目に見えない攻撃がお互いを飛び交う。やがて、膠着状態に陥った白夜と追跡者。それを破る一手を指したのは、白夜であった。 「調子乗るなよ!おまえ!先生に言いつけるぞ!」 今度は脅しをかけてみた。子供にとって、先生に言いつけるという文句は、いじめっ子を相手にしたとしても、立場を逆転できる可能性のある必殺のフレーズである。 後から報復を受ける可能性もある諸刃の剣ではあるが、威力は高い。だが、それでも謎の存在は反応を示すことはなく、白夜を嘲笑うかのように沈黙を貫く。何かに纏わりつかれている不快感だけが白夜には残された。 「姿を見せろ!決闘だ!」 白夜は遂に戦う意思を表明した。まずは姿を確認する。話はそれからだ。 近くに落ちていたバットを拾う。追跡者も武器を拾いあげ、お互いに臨戦態勢に入る。白夜はバットを振り下ろし、バットは追跡者に頭に命中する。子供の威力でも、クリティカルヒットになったことは、ほとんど間違いないだろう。殴った反動で白夜の腕にも痛みが生じる。 追跡者の攻撃も同じように放たれたが、白夜は無傷だ。形勢は白夜優勢に思われた。 「・・・」 ぬくぬくと起き出した追跡者は再び白夜を捕捉する。 「こいつ!殴られても平気だと言うのか?」 白夜は攻撃が全く通じていない事実に驚愕する。奴はニヤリと笑みを浮かべ、攻撃を仕掛けた白夜を嘲笑する。一歩、一歩と迫り来る恐怖に白夜はバットを捨てて後退りする。 「気持ち悪い!離れろ!」 対話や脅しに一切の反応がない。戦っても勝ち目はない。ただ、抵抗しようとする白夜を観察して悦に浸っているだけだ。 白夜は走り出す。全力で町を駆け抜ける。 「こうなれば、もう逃げるしかない。必ず振り切ってみせる!」 白夜の逃避行が始まった。
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