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この夏買ったばかりだったサンダルの左足は泥まみれにすり切れ、右足はもうどこで落としてしまったのかもわからない。
ストライプのシャツワンピースのボタンは弾け飛んでいて。赤黒く染まってしまったタンクトップが丸見えだ。
わかっているんだけど、私はそれを隠す事すらできずに歩き続ける。
「やっと会えた」
懐かしい声に私の胸がざわざわとして一気に加熱される。
言葉を返す事もできず。
もう涙を流す事もできない。
『私に触れないで』
誰か彼に伝えて。
彼を止めて。
どこか遠くへ連れて行って。
「ああ。あああ」こんなおぞましい声だけが漏れ出る。
目の前の彼に私は掴みかかる。
彼はそんな私を振り払う事も無く、力一杯抱きしめた。
彼の温もり。
この温もりを今の今まで忘れていたなんて!
彼の匂いに包まれて、私にもこんな幸せな時があったのだと熱い想いだけが蘇る。
なのに私は彼のその熱い血の流れる首筋に口を近づけ、歯を剥き出しにする。
やめて、やめて、やめて!
どうしてこんな事に――――
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