胸の爆発

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 病院から自宅までは電車とバスで3時間掛かる。夫は手術が終わる頃には着いていて、地に足がつかない状況で待っていたらしい。医師の説明を聞いた夫は「命があって良かった」と胸を撫でおろしていた。 「風船ダメだったね」 「ああ、でも海なんて良く考えれば水着じゃなくても行けるだろ。命があればこそだよ」  夫は力一杯励ましてくれる。 「そうだけど、ビキニを着て一緒に泳いでみたかったなあ」  私は夫の実家がある千葉の海水浴場を思い出す。もう何年、海に行っていないのか。足を取られながら走る砂浜、照り付ける太陽、頬に掛かる波しぶき。ココナッツのようなサンオイルの匂い。夫と行きたかったな。  次の日ベッドで小説を読んでいると、形成外科の医師がやってきて「今回はこのような結果になってしまいましたけど、経過をみて、また風船を入れることが出来ますよ」と言った。 「皮膚が薄いのに大丈夫なんですか?」 「ええ、直ぐにというわけにもいきませんが」  それは嬉しい。そしてやっぱり乳首も付けて貰おうか。すぐにメールでそのことを夫に伝えると返信が直ぐに返ってきた。 「良かった。良かった。嬉しいだろ。お前ちょっと落ち込んでたもんな。土曜日に面会に行くからゆっくり話をしよう」  私はそれを読むと頬が緩んできた。土曜日に夫に会ったら言おうと心に決めた。 「あの日、貴方に会えて良かった」と。「これからも宜しくお願い致します」と。胸が爆発したけど笑えたのは貴方のおかげです。
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