胸の爆発

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 ボンっと胸が爆発した。嘘のような本当の話だ。  その日、爆発した時のことはハッキリ覚えている。私は乳がんの手術を終えて3日目だった。まだ40代の身体だったので胸を全摘出した後に形成外科の手で乳房再建の為の風船を胸に入れて貰っていた。それが爆発したのだ。病室の洗面所で歯を磨いている時にだ。  場所は関東の大学病院であった。癌治療で有名な場所でもある。  私は手術する事前に形成外科の外来に行っていた。形成外科の医師は真っすぐ私の顔を見て真剣な表情をした。 「乳がんが広範囲にあるらしく左胸を全摘出するそうですね。癌の手術に関することは乳腺外科の医師から説明は受けていると思います。まだ40代で胸が無くなるのは悲しいでしょう。でも大丈夫。今は保険で乳房の再建が出来ます。形成外科では乳がん摘出の時に一度に乳房再建は出来ないので、風船を乳房に入れます。それで皮膚を伸ばしておいてから後日にお腹や背中の肉を持ってきて、左胸を作り上げます」  まだ30代くらいに見えるイケメンの医師がブルガリの時計を光らせて言った。正直、私は痩せていて、胸なんか無いも同然だったが、前日の夜に相談したら夫が是非にと言う。 「一緒にさあ。海に行きたいんだよ」  まあ、愛する夫がそう言ってくれるのなら考えてもいい。私は「はあ、ええ」と狭い診察室で医師の説明を聞いていた。夫は仕事で同席出来なかった。 「乳首もあるんです。ホラ、色々な種類が」  医師が乳首のサンプル写真が並んだカタログを開く。私はまた「はあ、ええ」とそれを見た。イケメンの医師と乳首を見ている自分が滑稽に思う。 「シリコンなんですけどね。良く出来ているでしょう」  まさか、夫と海に行く為に乳首まではいらないだろう。 「あの、乳首はいらないです」 「まあ、時間はたっぷりあるので良く考えておいて下さい」
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