胸の爆発

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 その日の外来はそれだけで帰った。左胸の中に癌があると思うとそれだけで参ってしまいそうになる。電車の車窓から見る秋の景色は土だけの何もない畑が広がっていて、どこか寂しく感じた。  自宅のある駅に着いて電車を降りる。レンガ造りの綺麗な駅だ。渋沢栄一の銅像が出迎えてくれた。そこから自転車置き場に行って赤い自転車を引っ張りだす。なるべく他人の自転車を傷つけないよう細心の注意を払って道路に出た。  自転車置き場から自宅までは15分の距離だが、途中に大きなスーパーがある。そこで夕ご飯のおかずを買わければいけない。  自動ドアから中へ入ると惣菜コーナーがある。私は惣菜でおかずを済ませるといったような手抜きはしない。今日みたいな病院の日以外でも仕事の為に何時も帰宅するのは夕方になるが、魚や肉、野菜類を買ってきちんと家事はこなしている。私は吟味した挙句にレバニラ炒めの材料を持つとレジに行った。   レジには長蛇の列が出来ていた。夕方だから買い物客が多いのだろう。同じ年齢くらいの女の人が重そうに買い物かごを持っている。形成外科に行った帰りだからか、他人の胸の膨らみが気にかかって仕方がない。ポッチャリした女性の胸に顔を埋めてみたくなる。  スーパーの袋を下げて、◯◯ハイツという古びたコーポに到着する。夫と二人、住んで10年になるだろうか。私たちは子供を作らなかった。冷蔵庫に食料品を入れ、ユーチューブを見て余暇を楽しむ。私はお笑いが好きだ。こうして癌になって落ち込んでいるときもコントを見て笑い転げる。
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