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「ただいま、病院どうだった?」
靴を脱ぎながら夫が言う。
「ウン、形成外科の先生が言うには本当の自分の肉で乳房が作れるらしいよ。その間は風船を入れるんだって、エキスパンダーって言ったかな」
「一度に手術は出来ないのか」
「そう言ってた」
私はキッチンに行く為、立ち上がる。部屋は和室の造りなので座布団の上で座りながら話をしていたのだ。
「ねえ、本当に胸がいる?」
私は振り返って夫を見た。
「ああ。まだ一度も海に行ったことないだろう。水着になるなら胸くらいないとな」
「そうだよねえ」
「ああ、それより、お前はその恰好で行ったのか?」
「ウン。大学病院ってお洒落して行く人多いんだよ」
私は赤いワンピースにライダースジャケットを羽織っていた。
「病人じゃないみたいだな」
「乳がんなんて痛くも痒くもないもん」
私は自覚症状が無い時に癌を発見して貰った。お腹が痛くて近所の病院に行った時、血液検査で腫瘍マーカーが上手くヒットしたのである。それから全身をCTで見て、胸に陰りがあるということで念のためと乳腺外来に行ったのだ。お腹が痛くなったのはただの食あたりだったのだなと今になって安堵する。
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