99人が本棚に入れています
本棚に追加
それから直ぐに看護師さんが数人集まって、私は救急治療室に運ばれた。
チクチク、チクチク。
血管に上手く針が入らないらしい。知らない医師がエコーで静脈を探す。
「細いですねえ」
「ええ、採血なんかは股の付け根から取るんですよ」
「鼠径部ですかあ。この細さならそのほうがいいかな。でも輸血はねえ。鼠径部は無理なんです。痛い思いを沢山させてしまってすみません」
「いいえ、こちらこそ細い血管ですみません」
私は摂食障害だ。その中の拒食症である。体重は39キロ、身長が160センチあるので細すぎだ。その為に血管が細いのだろうと申し訳ない気持ちになる。
チクチク、チクチク。
医師が額の汗を拭いながら器用に細い血管に針を入れる。いったい何ヶ所刺されただろう。細い針が足や手に刺されて輸血や点滴の管に繋がれて身動きとれなくなる。ふいにドアが勢いよく開いた。
「内藤さん、大丈夫ですか?」
乳腺外科の医師は外来にいたらしく急いで来たのだろう。目を大きく見開いて患部を見る。形成外科の医師も来た。その他の麻酔科などの医師も気が付いた時にはベッドの脇に立っていた。
「緊急手術をしたいんですが、ご主人様と連絡はとれますか?」
医師の一人が慌てて聞いてきた。夫は仕事中は電話に出ないしメールも見ない。職場はスマートフォンは持ち込み禁止なのだ。若い頃と結婚した当初も型枠大工だったが、結婚してからはコンクリート製品の製造工場で働いている。
「工場に掛けてみてください」
医師は「はい」と言い、その後に夫と連絡がとれたようだった。
「ご主人様、すぐに仕事場から病院に来るそうです」
私はふうっと息をした。
最初のコメントを投稿しよう!